杵築市立山香病院

院長挨拶

院長挨拶GREETING

平成17年の市町村合併で山香町は杵築市、大田村と合併し、病院名は現在の杵築市立山香病院となりました。そのため病院は杵築市の中心市街地から離れ、田園に囲まれた長閑な丘の上にあります。昭和30年から半世紀以上にわたって地域を見守り、地域住民に支えられて現在に至っています。病院はまさに山香地域の住民にとっての誇りであり、宝物と言えます。全国有数の医療資源が過剰な別府市と隣接し、東部医療圏は医療が充足した地域と評価されます。しかし実際には、杵築市は人口当たりの病床、医師数が少なく、医療が脆弱な医療圏内のスポット危険地帯と理解するべきと考えます。
私は平成25年に事業管理者兼院長として赴任しました。当院は地域包括ケアという言葉が存在するずっと以前から、保健・医療・福祉の一体化を目指して理想的な医療体制を模索し、地域医療の先進病院だったと言えます。私の赴任当初は運悪く病院の運営・経営は危

機に瀕していました。しかし、先達が苦労して構築した地域包括ケアシステムの基盤があり、有効に動かすことで病院は生まれ変わり、新たな地域医療の時代に向けて希望を繋ぐことができました。未来に向けて揺るがない基盤を創出するためには、規律ある組織力、品位あるガバナンスなどが必要であり、病院の基本的な骨格を現在強化しています。
日本では2010年を過ぎて人口減少社会が急激に進んでいます。加えて少子高齢化という難題が重なり将来を不安にさせます。地方では都会に比べてその傾向はいち早く進み、ここ数年、当院でも外来患者数の減少が止まりません。人口の都市集中による偏在化が進み、人口の地方分散への有効な手立ては未だ見出されません。情報化が進み、どこでも不自由なく暮らせる時代の到来を考えれば、自然に囲まれた豊かな暮らしがもっと見直されるべきです。人が幸せを感じる豊かな暮らしとは何か再度考え直す必要に迫られています。

厚生労働省は2025年問題として、地域医療構想の推進、医師の働き方改革、医師偏在の是正などを医療の現場に求めています。その最中、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、これまでの日本の医療の在り方を再検討する必要に気づいたはずです。危機管理に弱い脆弱な医療体制が露見しました。安心・安全が脅かされる新規感染症の脅威に飲み込まれました。危機からの復元にはレジリエンスという力が重要です。柔軟で強靭な復元力です。ピンチをチャンスに導く力です。日頃から病院運営でレジリエンスを意識しています。医師偏在の打開策としては、総合診療医の活躍に期待しています。自身も医療資源の極めて乏しい離島医療を経験し、専門性だけでは全く通用しない医療のあり方を痛感しました。高齢者は認知症に加え多彩な疾患を有し、医療だけでなく福祉にも精通し、社会面、心理面などバランスよく対応できるマルチタスクな医師の存在が地域医療では望まれると考えています。深い知識と経験を積んだ、リスペクトされる総合診療医の存在は今後の地域医療の救世主になるに違いありません。

厚生労働省はさらに先の2040年問題も示しています。働き手の減少による医療現場の危機です。地方の病院では、全ての部門において優秀なスタッフを確保することが既に難しくなっています。次世代を担う人材育成の工夫が重要です。退職後の職員の活用や優秀な高齢者の雇用など進めています。AI導入を含めオンライン診療の準備などデジタル化の推進を積極的に行っています。医療現場の役割分担を再考するタスクシフトなど様々な改革を同時に進めています。予想される困難を先取りして新たな地域医療のデザインを進めることが、不透明な時代を生き抜くために極めて重要と考えています。
脱炭素化など、地球の未来に向けて持続可能な世界を考えるSustainable Development Goals (SDGs) の活動が注目されています。急激に人口減少が進む地域社会に人が暮らし続けるためには、地域に安心できる医療が存続し続けることが最低条件です。持続可能な地域医療を目指して、病院が地域共生社会の一端を担いながら、住民から愛され頼りにされる病院、次世代が未来に夢を持てるような地域医療を目指して、情熱を持って精進し続けたいと考えています。

院長 小野 隆司

病院事業管理者・院長

小野 隆司

専門分野
総合医
出身大学
島根医科大学
学会認定等
医学博士
総合医日本外科学会専門医
日本外科学会認定医・専門医
日本消化器外科学会認定医・専門医
消化器がん外科治療認定医
日本肝臓学会専門医
日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医
認定産業医
インフェクションコントロールドクター(ICD)
日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医